★円熟の好調ぶりが続く現代メインストリーム・テナー(&ソプラノ)サックスの最高峰の一人:ブランフォード・マルサリス(1960年米ルイジアナ州ブロー・ブリッジ生まれ)の、Blue Noteへの移籍第一弾となる本盤は、ジョーイ・カルデラッツォ(p)らとの鉄壁のレギュラー・カルテットによる、キース・ジャレット・ヨーロピアン・カルテットの名作アルバム「Belonging」(1974年ECM)をまるごとカヴァーした一編。
★キュッと引き締まっていながら同時に柔らかな丸みを帯びてもいる、味わいと弾性に富んだ音色のテナーが、ハード・ドライヴィングに勢いよく渦巻きウェイヴを描きつつブルース・フレイヴァー濃い吟醸的メロディック節を朗々と歌って、何とも粋な魅力を放ち、キレのよさと潤いを兼備した詩情豊かなピアノ以下、リズム・セクションの律動性と浮遊感覚を併せ持った芸の細かいサポートもグルーヴとサスペンスを的確に高めきった、全編ジャレットやガルバレクらの芸風とは趣を違える(→例えば意外ときめ細かに吟遊詩人ぶりを見せていたヤン・ガルバレクに比しブランフォードのテナーはより太く重いモーダルな鳴り様を呈し、楽器持ち替えの曲も異なり本盤ではタイトル・チューンでブランフォード独自のソプラノによる新解釈も聴かれ、またピアノに関してはジャレット一流のゴスペル・フォーキーな軽みあるブルース節の歌いっぷりに対してカルデラッツォの場合モードとバップの語法が基調を成していて更にこってりダウン・ドゥ・アース&ヘヴィーに迫るといった違いがあり、加えて全体に醸し出される独特の浮遊感もブランフォード版の方は本家ジャレット版ほど顕著ではなかったりする→浮遊感と云うよりもドッシリ腰を据えて力業で綱引きをやっているような雰囲気?)ブランフォード流のポエティシズム風景が陰影をもってダイナミックに創出され、フレッシュに愉しませる充実の好演内容。
★旋律や和声の美と安定感充分に揺れ躍るスウィンギンなノリのよさを何より重んじ、ブルース・フィーリングも潤沢に備わった、そしてトータルなイメージとしてはブランフォードらしく現代ポスト・バップの流儀でもってジャレットの抒情的音楽世界をユニークにリブートしてゆく、といった感じの中々骨太な妙演が力強く展開され、カルデラッツォ(p)の結構アーシーでソウルフルな黒さを感じさせる(並行してアグレッシヴなモード派らしさも見せる)活躍も随所で美味しいアクセントを成す中、座長であるブランフォード(ts)の悠然かつ堂々と構えた重みと分厚さある即興ブロウが、威厳充分にこってり濃い見せ場を飾って壮快だ。
→リリカル路線やスローリーめの局面では幾分かマイルド・テンダーな浪漫詩人ぶりを覗かせるところもあるものの、やはりその本領はよりアクティヴなアプローチにおける、コク深い漆黒のブルース・カラーと、コルトレーンやオーネットを経た上で独自に音数を絞って適宜余白を空けたモーダル・ダイナミズム表現、をドッキングさせての甘くないシリアス&ヘヴィーな頑とした躍動=スピリチュアル咆哮にこそ遺憾なく発揮されている感があり、そうしたさすがブランフォードならではの、激烈なのに決して暑苦しくないスタイリッシュでダンディーな(加えてちょっぴりドライな)吹鳴のあり様は醸熟味も十二分で説得力絶大。
★ブランフォードの一人勝ちな印象もあるが、そこかしこで瑞々しく瞬くような煌めきを放つカルデラッツォ(p)の敢闘も際立っている。トータルなところで本家ジャレット版とこのブランフォード版を比較するなら、ジャレット版が典型的な"ヨーロッパのジャズ"の様相を示していたのに対し、ブランフォード版の場合は米製メインストリーム・ジャズの世界観が根底に流れている、辺りが最たる差異、か。
LP 1
Side A:
1. Spiral Dance
2. Blossom
Side B:
1. ‘Long As You Know You're Living Yours
2. Belonging
LP 2
Side C:
1. The Windup
Side D:
1. Solstice
Branford Marsalis (tenor saxophone except B-2) (soprano saxophone on B-2)
Joey Calderazzo (piano)
Eric Revis (bass)
Justin Faulkner (drums)
2024年3月25-29日米ルイジアナ州ニューオーリンズのthe Ellis Marsalis Center for Music録音
レーベル:
Blue Note
在庫有り
限定生産・輸入盤2枚組(見開き)LP
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