本盤は、カルテットによる1970年3月録音の傑作。コルトレーンらの成果を十二分に踏まえた、熱く濃厚な激情的スピリチュアル世界がこってりとダイナミック&エモーショナルに描破されてゆく壮快昂揚編である。至極生々しい勇猛苛烈なパッションがほとばしり続けるような、完全燃焼のアグレッシヴな疾走的様相を呈する一方、組曲風の大河ストーリー性を有したそのドラマツルギー的な構成意匠や、フリー・ジャズの語法を豊富に取り込んだ奔放にしてシャープなアクションのキレ、といった面には(タフな熱血ド迫力にとどまらぬ)研ぎ澄まされた覚醒的クールネスも多々感じられて興趣深いものがあり、宮沢の、非常に逞しくエネルギッシュでありながら鋭いエッジの利いた輪郭のクリアーなts咆哮や、激しくも爽涼味ある瞑想的flプレイ、抽象性と情魂味をスリリングに交錯表出する佐藤允彦の瞬発機動力抜群な速攻アクション、などのソロ活躍も妖しいまでに鮮烈な映えを示した、メリハリ満点の実に眩い劇的雄渾世界を創出している。
↑CDリリース時の当店キャプション
原風景に思いを馳せ、心象と情感を丹念に音楽に織り込んでゆく。本作は、宮沢 昭が到達したひとつの極みである。
本作は1970年、ビクター<日本のジャズ>シリーズの1枚としてリリースされた。「われわれは日本人なんだから、日本人にしか出来ない奴をつくらなきゃならないと思う」。この時期の宮沢 昭の言葉である。宮沢が日本人にしかできない作品をつくろうとしたとき、自身の原点=生まれ育った故郷をモチーフに選ぶのは必然だったろう。長野県の松本市で生まれ、ましてや釣りに親しんだ宮沢にとって「木曽」「浅間」「白馬」「飛騨」はまさに原風景である。森山威男の怒涛のドラム、荒川康男の豊潤なベース、佐藤允彦の零れるようなピアノ、そして、情感をそのまま音塊にしたような宮沢のサックス。生まれ育った土地に対する郷愁や賛美、また大自然に対する憧憬や畏敬。宮沢は自身の根源見つめ、思いとイメージを真摯に丹念に音楽に織り込んでゆく。宮沢が到達したひとつの極み。それが本作『木曽』である。text by 尾川雄介 (UNIVERSOUNDS / DEEP JAZZ REALITY)