★ヴォイス的手法やポエトリー・リーディングの要素を加味した幻想感漂う芸風・作風にワン&オンリーの妙味を発揮する英国の個性派大ヴェテラン女性シンガー兼作詞家:ノーマ・ウィンストン(1941年英国ロンドンのボウ生まれ)と、BashoやEdition、ECM等よりの諸作に高い評価を得る英ロンドン拠点の独創肌ピアニスト:キット・ダウンズ(1986年生まれ)、というともにユニークな二人がガッチリとコンビを組んだデュオ・アルバム。
★息を合わせて妖しく仄暗い瞑想世界をじっくりと進んでゆくかのような、繊細で神妙な抑制の利いたヴォーカルとピアノの阿吽のアンサンブルが静かに、穏やかに瑞々しい感動を齎す、爽やかにして異次元っぽくもある独創内容。
★落ち着いた中低音の艶やかな美声による、つぶやき・語りに軽く節をつけたような自然にしてニュアンス&真心に富む夢幻の如きリリカル演唱がしっとりとセンシティヴに華を成し、その一声一声に細かく合いの手を入れつつ深遠な耽美的ロマンティシズム+詩情を体現するピアノの弾奏も、節度をもって端正に美しい煌めきを見せた、以心伝心のテレパシー対話を見るが如き概ねバラード・コンセプトを基調とした交感が続く中で、ウィンストン(vo)の、録音時81歳とはとても思えない殊の外清新で丹念に機微の込められた、バラード解釈の圧倒的奥深さ・濃やかさに加えてジャズ・ヴォーカルならではのグルーヴ表現やブルース翻案なども適所に微細に盛り込まれる、その柔和で悠然とした息遣いの内側に何とも云えぬ幽玄を潜ませた語り口が、何より鮮麗の極みたる魅惑力を揮って傑出しており、対するダウンズ(p)の、どちらかと云うと先ずは控えめに盛り立て役の任を真摯に担い、並行して独自の内省美学に根ざした哀愁浪漫描写にも無双の妙味を行間含蓄っぽく見せる、といった風で、両者が卓抜なるコンビネーションのもとに各々の最良面を発揮した孤高のやりとりが、しかしあくまで簡潔に交わされて豊かな余韻・余情を残す、そうした結構サラリとしたさりげない流れは大層濃密で誠に素晴らしい。
★とりわけウィンストン(vo)の、ダーク&メディテイティヴな妖艶バラード表現や、ヨーロピアンらしい吟遊牧歌詩人風の"晴れやかアウトドア路線"っぽいアプローチ、そしてまた、ヴォイス〜ナレーション寄りの行き方、更にはブルース&バップの伝統にしっかり根を下ろしたグルーヴィーな小節、など、(概ね「バラード集」というある程度の統一様式を持った)このユニークなフォーマットの中で何げに幅広く自己のキャリアを集大成したような悔いなく迷いなきその入魂の歌いっぷりは、ちょっと神がかった蠱惑性に溢れている。降参。
01. El
02. フライ・ザ・ウィンド
03. ジーザス・マリア
04. ビニース・アン・イヴニング・スカイ
05. アウト・オブ・ザ・ダンシング・シー
06. ザ・ステップ
07. ノクターン
08. ブラック・イズ・ザ・カラー
09. イン・サーチ・オブ・スリープ
10. ロウイング・ホーム
Norma Winstone ノーマ・ウィンストン (voice ≒ vocal)
Kit Downes キット・ダウンズ (piano)
2023年4月イタリア-ウーディネのArtesuono Recording Studio録音
レーベル:
ECM Universal Music Japan
在庫有り
国内盤SHM-CD