★田村夏樹(tp)(1951年滋賀県生まれ)と藤井郷子(p)(1958年生まれ・東京都出身)のフリー派夫妻コンビによる、3年ぶり・9作目となるデュオ・アルバム。
★端正でいて重心の据わった繊細さと骨太感の並立するニュアンス濃やかな堅牢タッチのピアノが、じっくりと瞑想の世界へ入ってゆくようなスピリチュアル・バラード的アプローチで奥深いところを見せながら、時折エモーションを爆発させるが如きダイナミズム攻勢あるいは不穏で怪しい不協和音を瞬発的に炸裂させたりなどの転回も絶妙の按配で盛り込んで、上手く起伏メリハリをつけ、がトータルとしては大凡のところメディテイティヴ・ロマンティストらしいキャラ・イメージを定着させて荘厳で力強い感動を齎し、
一方、こまめに打楽器も活用して妖しいエキゾティズムを漂わせる反面、突風が唸りを上げる感じでもあるノイジーなトーンのトランペットの抽象実験性と狂おしいスピリチュアリティが交錯する咆哮の様も、切迫したワイルド・テイスティーな妙味を揮いきった、全体を通じフリー・ジャズならではの奇怪な異形性は多々あるもののその中でしっかりと詩情〜リリシズムが探究される渾身熱演の連続で、大いに胸熱くさせられる敢闘内容。
★シュールでダダイスティックなある種の頓狂さに溢れるのと並行して、詩的な情緒性も確固と示された、アブストラクトとスピリチュアルの両極端を烈しく往来する極めて硬質な即興インタープレイが、妥協なくストロングに推し進められてゆき、以心伝心・当意即妙な両者のコンビネーションの粋もきららかに際立ち続ける中で、各々の肝っ玉の据わったフリー・インプロヴィゼーションが超フレッシュ・スリリングかつ鮮麗に冴え渡って全く素晴らしい。
★田村(tp)の、ビザールでストレンジな騒音・雑音めいた歪み吹鳴の内側からエスニック・フォーキーな情魂味を濃厚に立ち昇らせて見せたり、時にはトランペット本来の美しい音色をストレートに活かして雄々しく哀愁節を歌ったり、などのあくまでエモーショナルなプレイが力強い輝きを放ちまた切実なる昂揚感を呼び込んでおり、かたや藤井(p)の、奇異な破壊性を覗かせるところもあるものの大筋では表情は険しいがわりかし真っ当な(※真っ当とは云っても飽く迄"フリー派の範疇"における真っ当である。念のため。)バラード・プレイヤー&唯美主義者の本領を発揮した、心象風景の無限の深淵を見る思いのダーク・ポエティックなストーリーテラーぶりがまた格別。
1. Migration (8:09)
2. Wintering (8:08)
3. Traveling Bird (4:57)
4. Lifting (9:26)
5. On The Flyway (10:04)
6. Waiting For Dawn (9:37)
*all composed by Natsuki Tamura(BMI) and Satoko Fujii(BMI)
田村 夏樹 Natsuki Tamura (trumpet) (percussion on 1, 3, 4)
藤井 郷子 Satoko Fujii (piano) (noise? on 6)
2023年12月13日米ニューヨークシティのSamurai Hotel(Studio)録音
レーベル:
Libra
在庫有り
国内制作・見開き紙ジャケット仕様CD