★松本英彦と並ぶ本邦モダン・テナーサックスの最高実力者であり、半世紀を越えるプロ・キャリアの中で数々の優れたレコーディングを残した渋筋の名手:宮澤昭(宮沢昭)(1927年長野県松本市生まれ、2000年東京都三鷹市で死去)の、本盤は、浅川マキのプロデュースによる"ゼロアワーシリーズ"の一枚として1992年に制作リリース(録音は91年12月)されたレアなアルバム(東芝EMI・EAST WORLD原盤)の再発(CDとLPの2種フォーマットあり)(※LP化は初)。編成は、このゼロアワーシリーズ3作品全てに登板している渋谷毅(p,org)とのデュオ。
★逞しい締まりや骨太感を湛えると同時に独特の丸みや柔らかさも決して絶やさない、リキまぬ中に渋い滋味を漂わせたコク深きトーンのテナーが、メロウ&スムースに流線形あるいは渦巻きを描くような哀愁節であったり、よりキリッとしてハード・ドライヴ感を全開させたダイナミック咆哮であったりの、バップ・スピリット&ブルース・フィーリングそして歌心にしっかり根ざし、貫かれた人情肌エンタテインメントの鑑たるアクティヴ・リリカル・プレイをごく自然に呼吸するが如く滑脱に綴って、何とも云えぬ含蓄豊かな魅力を放ち、これを優しく濃やかに盛り立てながらその繊細堅実な物腰の奥底から独特の物悲しいロンリネスを匂わせる、折り目正しくもニュアンスに富んだ翳のあるピアノの助演もアジに際立った、全体を通じ熟練者同士ならではの落ち着きと行間溢れるやりとりにしみじみと感動させられ、また小気味よくノセられる巧まざる高密度内容。
★1曲1曲は比較的簡潔にまとめられ、リズム・スタイルやテンポには次々多様な変化がつけられて上手くメリハリが齎される、清新味は途切れずトントン拍子で軽やかに進む和気あいあいのインティメイトな行き方が続き、何よりメロディーや和声の美と真っ当なノリのよさを尊ぶ誠実この上ない道程の中で、宮澤(ts)と渋谷(p)ともに真摯に年季を積んできた者らしい懐の広そうな、衒いもハッタリもない(→一聴何の変哲もなく殊更飾り立てぬ芸風を身上とする)アドリブ妙技が、ピタリと息の合ったセンシティヴなコンビネーションの粋と相まって奥行きある冴えを見せており、全く素晴らしい。
★宮澤(ts)の、百戦練磨の猛者ではあるがここではどちらかと云うとリラクシングなバラード・タイプの憂い漂うロマンティスト面にさすが醸熟の真価が悠々揮われていて、その、タフガイの嘆き・哀しみをゆったりじっくりと自然体で表すテンダーなアプローチを丹念に紡ぐも、所々に本来の持ち味とも云うべき質実剛健の男臭さが見え隠れする辺り、或いはまたより動きの烈しいトラックでの力強い砲撃ぶり、なども含めて、その1ミリも揺るがず温かい包容力を感じさせる吹鳴のあり様は正に芳醇の極みで白眉。
★かたや渋谷(p)の、抑制を利かせてソリッド&スクエアーに"相手役"を演ずるも、随所にフレッシュで爽やかな得意のメランコリック文体が顔を出し、空間を「渋谷毅カラー」に染め上げてしまうところがまた好もしい妙味。
Side A:
1. 野百合 (6:02)
2. 12+2 (2:12)
3. 秋意 (3:51) (solo piano)
4. Beyond The Flames (5:09)
Side B:
1. Sea Horse (3:34)
2. 浜名湖 (5:02)
3. Water Beetle (3:26)
4. Dozing Blues (2:57)
宮澤 昭 (宮沢 昭) (tenor saxophone except A-3)
渋谷 毅 (piano) (organ on B-1;pianoと併用)
浅川 マキ (producer)
1991年12月5日-6日東芝EMI第3スタジオ録音
1992年日本作品(原盤:東芝EMI・EAST WORLD TOCT-6631)
レーベル:
C.A.E.Record
在庫有り
国内制作・限定生産LP