★1990年代半ばにスティーヴ・コールマンのサイドで頭角を現して以来、独創的ラジカル街道を突っ走ってきた、尖鋭感覚溢れる突出個性のユニークな人気ピアニスト:ヴィジェイ・アイヤー(1971年米ニューヨーク州オールバニー生まれ)の、今盤は、好評だった前作「Uneasy」と同じ顔ぶれ、即ち、リンダ・メイ・ハン・オー(b)&タイショーン・ソーリー(ds)との鉄壁トリオによる快調編。
★端正で滑らかな無理なく流れ転がるような感触と、よりクッキリと輪郭を鮮明にして角を立てる鋭さ・キレのよさ、を表裏一体とした陰影濃いセンシティヴ・タッチのピアノが、ゆったりとスペイシーに浮遊しトグロを巻くが如きメディテイティヴな心象描写であったり、より動きのあるモーダル・バピッシュ&スウィンギンな敏活アクションであったりの、ほぼ一貫して「熱を殺しクールに醒めた」イメージの、だがしっかりとした深い情緒をも感じさせる躍動型リリカル・プレイを一定のゆとりを保ちながら軽やかに綴って、何とも云えぬ幽玄漂う風流な魅力を放ち、ベース&ドラムの機略縦横に絡み込んでくる自在な遊撃的サポートもグルーヴとサスペンスを的確に強化しきった、全体を通じ小気味のいいノリの中に無限の奥行きを湛えた憂きポエティシズムの世界に快調に遊ばせ、浸らせてくれる熟度十二分の好投内容。
★一聴何の変哲もないモード系ハード・バップのようだがその芸風・作風は作曲面も含め決して誰にも似ていない、アイヤー独自の根は詩人気質なアクティヴ・ロマネスク快演がどこか飄々と軽みをもって展開してゆき、雄弁でこってり味のオー(b)や敏捷で切れ味シャープなソーリー(ds)らの助演もきららかに光り、それに適宜触発される恰好で、アイヤー(p)のしかし終始マイペースの安らかさを維持した滑脱なインプロヴィゼーションが行間豊かに冴え渡って、さりげなく蠱惑的でさえある様相を呈している。
→奏法の元を辿ればマッコイやハンコックに行き着くのかも知れないが似ているわけではなく、テンポのあるダイナミックなアクション技には独特の翳りや脱力感が見え隠れして清新なる感動・昂揚を齎し、バラード・プレイヤーとしても甘すぎず自ずと張り詰めたアンニュイなメランコリー描写に瑞々しい妙味を発揮、一部ニューエイジ・ミュージック寄りだったりフリーに急接近したアブストラクトなアプローチとかもあるが、そうした中でも半ば力学的ではあっても幾何学的にはなって行かない(即ちいかなる局面でも決して情緒を犠牲にはしない)、そうした、マッコイ、ハンコックは勿論、エヴァンスともジャレットともメルドーとも全く異なる、しかも、殺陣っぽい立ち回りを演じていても達観したような穏やかで涼しげな息遣い(そして豊かな詩的情感)を絶やさない(→そこらへんが、例えば迷路を疾駆するようなB・メルドー辺りのソリッドな芸風とは根本的に異なるところ)、その仄暗くビタースウィートでライト&ソフトに滑り流れるような弾鳴のあり様には、実に得難い雅趣が漂っていて絶品だ。
01. Compassion コンパッション
02. Arch アーチ
03. Overjoyed オーヴァージョイド
04. Maelstrom マエルストロム
05. Prelude: Orison プレリュード:オリソン
06. Tempest テンペスト
07. Panegyric パネジリック
08. Nonaah ノナー
09. Where I Am ホエア・アイ・アム
10. Ghostrumental ゴーストゥルメンタル
11. It Goes イット・ゴーズ (solo piano)
12. Free Spirits / Drummer's Song フリー・スピリッツ / ドラマーズ・ソング
Vijay Iyer ヴィジェイ・アイヤー (piano)
Linda May Han Oh リンダ・メイ・ハン・オー (double-bass except 11)
Tyshawn Sorey タイショーン・ソーリー (drums except 11)
2022年5月米ニューヨーク州マウント・ヴァーノンのオクテイヴン・オーディオ(Oktaven Audio)録音
レーベル:
Universal Music Japan ECM
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国内制作SHM-CD (セルフ・ライナー訳 / 解説付)