★ブルックリンを拠点としつつニューヨークの主にアヴァンギャルドなシーンで活躍し、アルバムも着々とリリース、フリー寄りのトンガった辛口の芸風・作風で鳴らした進歩派・個性派な女性ギターの鬼才:メリー・ハルヴァーソン(1980年米マサチューセッツ州ブルックライン生まれ)の、今回は、好評だった近作「Amaryllis」と同じ顔ぶれのレギュラー・グループ、即ち、トランペット、トロンボーン、ヴィブラフォン、ベース、ドラムとのセクステット(うち1曲にヴァイオリンがゲスト参加)による一編。
★冷涼に響く半パーカッシヴなヴィブラフォンや結構デカい音量でハジきよくウネり跳ねるベース、きめ細やかでちょっと音響実験っぽいところもありつつ端正にメロディー&和声を歌うギター、アーシー・ブルージーに唸るトロンボーン、微妙にハード・バップの匂いを残した鋭敏トランペット、キレのあるアタックと摺り足様の躙り寄りを自在に交錯させるドラム、らが渾然と入り乱れるようでありながら同時にスッキリと交通整理されてもいるという多彩でドラマティックな見せ場の競合を示してゆく、全般にシリアスな不可思議さと豊かな旨味が自然に両立した音世界をスリリングに愉しませる周到なる高密度内容。
★幾分アブストラクトに感じられるところもあるものの、完全なフリー系と云うよりは「モード・ジャズの最もハードな一形態」たるアウトラインを維持した、そして何よりコンポジションを大切にしアレンジや構成も十全に練られた劇的熱演、が烈々そうでありクールに醒めた息遣いも垣間見せつつ敏活滑脱に展開され、要所要所で半SF的ノイジー音をも炸裂させるハルヴァーソン(g)も目立ってはいるものの必ずしも主役というわけではなく、要するに主役を特定しない群像劇風の行き方が続く中、各人の簡潔にポイントを押さえたインプロヴィゼーションがあくまで作編曲を重んじる恰好で生々しくサスペンスフルな盛り上がりを見せて、大いに昂揚させられる。
★ハルヴァーソン(g)の、潤いと旨味に満ちたソリッド・トーンで中々"グルーヴィー"な立ち回りを繰り広げたり、アコースティックっぽい音色に転じてダークで妖しいフォーキー節を唄ったりと、恐らくメンバー中最も「バップでもフリーでもない」絶妙のサジ加減を保った活躍が殊の外クレヴァーな魅力を揮っており、また#6にゲスト参入するアンダーソン(vln)の甘さを排したシビアな硬質チェンバー的アプローチも好調、その他のメンバーに関しては概ねテーマ・アンサンブル・パートではコワモテのフリーらしさを際立たせるも、ソロ・コーナーになるとわりかしマトモなモーダル・バップ色が強まる、といった具合で、そういうバランスのとり方、按配のあり様に独自の妙味が認められるユニーク編に仕上げている。
1. The Gate
2. The Tower
3. Collapsing Mouth
4. Unscrolling
5. Desiderata
6. Incarnadine
7. Tailhead
8. Ultramarine
Mary Halvorson (guitar)
Adam O'Farrill (trumpet)
Jacob Garchik (trombone)
Patricia Brennan (vibraphone)
Nick Dunston (bass)
Tomas Fujiwara (drums)
with
Lurie Anderson (violin on 6)
2023年3月27日,28日米ニューヨークシティのSear Sound録音
レーベル:
Nonesuch
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