★バークリー音大に学び、ピアニスト兼コンポーザーとして国内外の幅広いフィールドで活躍、1991年にオーストリアのレーベル:Die Extraplatteに初リーダー作を吹き込み、1990年代後期以降はイーストワークスそしてこのAirplane Labelからコンスタントにユニークなアルバム群を発表し、高い評価と人気を得てきた(またエッセイストとしても注目を浴びている)個性的逸材:南博(1960年東京都生まれ)、の主導するピアノ・トリオ=WYP Trio(What's Your Problem?)の6曲入りミニ・アルバム的な一作。
★繊細で端正それでいて石を転がすような強固堅牢さも備わった、透明感と濃い陰影が交錯するソリッド・タッチのピアノが、メロディーや和声の美をストレートに追究する面と、思索瞑想傾向を強めてダーク・ビターかつ幾分アブストラクトに心象風景の奥底へ降りてゆく感じのシリアスな内省面、とを絶妙のバランスで掛け合わせた基本はあくまで抒情指向の哀愁香る詩的ロマネスク・プレイ、もしくは、より歯切れよく敏活に驀進スイングするダイナミック・バップ技、を中々自由闊達に綴ってキリッとシャープで凛々しい魅力を放ち、太く重厚にウネるベースや精確に律動しつつサスペンスフルに鋭く躙り寄るドラム、らの活躍も旨口のグルーヴと迫真のスリルを的確に醸成して頼もしい存在感を際立たせた、全般に耽美的詩情と硬質バピッシュ力学の両極端を往来する入魂の敢闘ぶりでフレッシュに昂揚させる濃密内容。
★先ず前半の3曲は妖しくゆったりとトグロを巻くような浮遊感漂うスローリー・インタープレイ・スタイルのバラード演奏で、続く2曲はストレートアヘッドに突撃する真っ向勝負のスウィンギンなハード・バップ、ラスト1曲はソロ・ピアノ(+口笛)によるマイルドで長閑な牧歌的寛ぎ路線、といった具合で刻々趣を転じてゆくドラマティックな道程の中で、終始水を得た魚の如く気力も充実しきったイキのいい滑脱な躍進を見せる南(p)の奮戦が、半ば独壇場っぽく鮮やかに冴え渡っていて全く爽快だ。
→とりわけ前半での一触即発の起爆感を孕んだバラード・インタープレイ曲群における、60年代ポール・ブレイ・トリオを幾らかマイルド化したような、不穏で仄暗い手探りの道行きの中に時折眩い光明が射し込む、といったイメージの翳りとニガみある憂きポエティシズムの体現には、座小田(b)&服部(ds)の超センシティヴな鮮麗サポートも手伝って、この上なく瑞々しいワン&オンリーの感動的妙味が確固と認められ(やはりこれが本盤中の圧巻の聴きどころ)文句なく傑出しており、また後半でのアクティヴィティを増した展開で見られる硬派ハード・バッパー〜メインストリーマーぶりやブルース音楽の伝統にしっかり根を下ろした吟醸感の深さ、更にはラスト曲での優しく親しみやすい明快晴朗なリリシストたるリラクシング妙技に顕れる安心感、辺りにも揺るぎない説得力があり、興趣は多彩でさすが充分年季を積み精進を重ねたヴェテラン名手ならではの面目躍如と云ったところ。
1.
Gelsomina
2.
Valencia
3. My Way
4. Turnaround
5. Bird In Berlin
6. Nonchalant (映画「白鍵と黒鍵の間に」エンディング曲) (solo piano + 口笛)
WYP Trio (What's Your Problem?):
南 博 (piano) (probably whistle on 6)
座小田 諒一 (bass except 6)
服部 正嗣 (drums except 6)
2023年日本作品
レーベル:
Airplane Label
在庫有り
国内制作 紙ジャケット仕様CD