過去幾多のヴォーカリスト達とのコラボレーションでも画期的な成果を収めてきた、学者=大学教授=音楽博士でもある日本(大阪市?)在住のコンポーザー肌アメリカ人個性派ピアニスト:フィリップ・ストレンジの、今回は荒玉哲郎(b)&齋藤洋平(ds)とのピアノ・トリオを基本としての、自作コンポジションをメイン・レパートリーとした一作。折り目正しく慎重・神妙に一歩一歩を進めてゆく感じの繊細で作法に適った透明感と潤い(そして色艶+香り)あるエレガントなクリスタル風タッチのピアノが、ロマンティックでどこか物悲しい寂寥感もチラつく、同時にブルースやバップに由来した旨口のグルーヴ傾向も自ずと有した、トータルとしてはセンシティヴでクーリッシュな、独特の翳りと苦味を仄かに含むニュアンスに富んだポエティック・プレイを端正かつ結構歯切れよく綴って、実に典雅で余情深い華をしっとりと成し、そういうピアノの機微ある動静にナチュラルに呼応するかのようなドラム&ベースのこれまた濃やかな、それでいてシャープなキレのあるサポートも阿吽の息遣いで的確にノリ並びにサスペンスを醸成しきった、全般にデリカシーとテンダネスが命ながら決して甘すぎない匙加減絶妙のバランスに仕上げられた、ワン&オンリーな独創性充分のリリカル・ピアノ・トリオの奥義を見る思いの練達充実内容。歌心〜旋律や和声の端麗美を何より大切にし、リズムやテンポには刻々様々な変化がつけられて上手く起伏メリハリが齎されるが、ほぼ一貫してその基底には「バラード・コンセプト」がしっかり息づく、といった印象の詩情溢れるメロディック奏演が流麗滑脱かつ敏活に展開され、手を代え品を代え意表性ある攻勢を掛けてくる齋藤(ds)や、しなやかな伸張力&弾力を効かせてウネり躍る荒玉(b)、らの遊撃的バックアップも終始フレッシュ・スリリングに魅力を際立たせる中で、ストレンジ(p)の、生粋メロディストにして生粋ロマンティストだが甘さに流されない卓抜な制御力を巧まずして備えた独自の語り口、=リアルに詩を吟じるかのようなアドリブ妙技が、最高に瑞々しくも儚さ仄めくちょっと刹那的とも感じられる煌めきを放って素晴らしい。→エヴァンスやジャレットらの成果を踏まえてはいるものの最早誰にも似てはいない、澄みきった清涼感と深い陰影の混在するビタースウィートな唯美的哀愁浪漫描写にはちょっと"別格"の蠱惑性があり、動きの烈しい牧歌的フォーキー・グルーヴ路線風の幾分おおらかで抜けのいいアクション・プレイの爽やかさ・晴朗さもさることながら、やはりその本領は薄暗い心象風景の中を手探りで丹念に彷徨いつつ進んでゆくが如き半内省的なテンダー・グルーミー文体にこそ遺憾なく発揮されている感があり、その一歩一歩を丁寧に踏み締める風な殊の外清新なる生々しさを漂わせながら俯瞰すると見事な作劇力をもって「構成」されてもいる、という何げに卓越したストーリーテリングの妙は絶品だ。
1. O Mio Babbino Caro
2. My True North
(dedicated to Paul Motian 1931〜2011)
3. Blue In Green
4. Timeless
5. Into The Blue
6. Harmelodica (p & ds duo)
7. Hush
8. Absinthe
9. Prayer (p & ds duo)
Phillip Strange フィリップ・ストレンジ (piano)
荒玉 哲郎 Tetsuro Aratama (bass except 6, 9)
齋藤 洋平 Yohei Saito (drums)
2023年作品
レーベル:
New Truth Records
在庫有り
見開き紙ジャケット仕様CD
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