★アルトサックス(とクラリネット)をメインに多種楽器を操る、過去20年来フランスで活動してきた独創肌の才媛:仲野麻紀(1977年生まれ)は、これまでにも企画ユニット:Kyや個人名義などでOhrai、openmusic(仲野の自己レーベルか)、Ottava、Plankton等から着々と多くのアルバムを発表してきたが、今回は、2017年より自身が始めたネット・ラジオ:openradioのアイデアをそのままアルバムとして構成したという、中々手の込んだ多重録音のソロ演奏作品。曲は本人の自作が殆ど(曲名は、ブルターニュの伝統曲1曲を除いて、インスピレーションを受けた文学作品の題名を使用。)。
★アルトサックス1本による冷涼で滑らかそして哀愁漂う純ジャズ・タイプのバラード調や、多重録音で複数のクラリネット群と妖艶なヴォイスが遊泳しつつ交錯するニューエイジ系のチェンバー路線っぽい行き方、サックス群とクラ群が縦横無尽にクロスしてヨーロッパ系(地中海風?)ワールド・ミュージック的なフォーキー牧歌世界を端正に形作る凝ったアンサンブル趣向、それにパーカッションやヴォイスも絡めてROVAやWSQとかにも底通するアカペラ・リード重奏の正統らしいアプローチを見せたりちょっとフリー系に接近したり、更にはピアノとヴォイスの弾き語りによるミステリアスでいてナイーヴでもある耽美曲が現れたり、或いはまた、クラリネット1本でフリー・インプロ型のコンポジション演奏が展開されていたかと思えばいつしかエレクトロニックでアンビエントな音響やナレーションが被ってきたり、などなど、殊の外色彩感に富んだ目くるめく夢幻迷宮的音空間に心地よく彷徨わせて(もしくは煙に巻いて)くれる、ワン&オンリーの独創的敢闘内容。
★1曲1曲は至って簡潔手短にまとめられた、快速テンポでトントン拍子に進む、しかも曲毎にガラリと趣を違える山あり谷ありの超カラフル&ドラマティックな激動的道程があくまで軽やかに創出され、そうした中で一定の抑制や節度をもって揮われる仲野の即興力ならびに作編曲力が、充分研磨された高いセンスをもって誠に鮮やかに冴え渡っており、全く見事。
→サックスやクラリネットの吹奏スタイルそのものとしては極めて折り目正しくエレガンスある抒情派フリー・インプロの様相を呈していて、これが大層美しくスピリチュアリティに溢れた煌めくが如き魅力を放つ一方で、そのバックにはアカペラ・サックス・アンサンブル物もしくは一種のミニマル・ミュージック的な「動く音の重層」が配置されて中々巧妙に変化・メリハリがつけられ、更には妙に生々しい感触で捉えられたピアノ弾奏やムーディーな一人コーラス風ヴォイス、電子音響、生録された自然音、キリッとしたナレーション、なども次々横切ってきて、いい意味で取り留めなくちょっと摩訶不思議な独自の幻視っぽい音空間がフレッシュ・スリリングに立ち現れ、実に蠱惑的だ。
01. Trilce -vers Fontainebleau- (César Vallejo) (1:21) トリルセ-フォンテーヌブローへ- (セサル・バジェッホ)
02. The cost of living (Arundhati Roy) (1:29) わたしの愛したインド (アルンダティ・ロイ)
03. L'arbre des voyageurs (Tristan Tzara) (2:58) 旅人たちの樹 (トリスタン・ツァラ)
04. Duhont'ar ar mane (4:32) (ブルターニュ伝統曲)
05. L'étoile et la fête / Hoshi to Matsuri (Yasushi Inoue) (0:22) 星と祭 (井上 靖)
06. Impressions d'Afrique (Raymond Roussel) (2:35) アフリカの印象 (レーモン・ルーセル)
07. À cor et à cri (Michel Leiris) (3:20) 角笛と叫び(ミシェル・レリス)
08. The doors of perception (Aldous Huxley) (2:53) 知覚の扉 (オルダス・ハスクレー)
09. Larme qui ne voit pas / Mienai Namida (Eisuke Wakamatsu) (2:44) 見えない涙 (若松 英輔)
10. La voix du vent (Fujiko Otani) (4:24) 風の声 (大谷 藤子)
11. Peau noire, masques blancs (Frantz Fanon) (1:47) 黒い肌、白い仮面 (フランツ・ファノン)
12. Onmyoji (Baku Yumemakura) (3:16) 陰陽師 (夢枕 獏)
13. La Mer aux arbres morts / Karekinada (Kenji Nakagami) (2:14) 枯木灘 (中上 健次)
14. Analogique Maladroit (3:23) 不器用なアナログ
15. Trilce -vers Susukawa- (César Vallejo) (0:44) トリルセ-煤川へ- (セサル・バジェホ)
16. ボーナストラック
仲野 麻紀 Maki Nakano (alto saxophone, metal-clarinet, alto-clarinet, voice, reface DX(synthesizer), taârija, shekere, hamon, baccarat crystal glass, udu, kalimba, balafon, piano, field recording)
2020年〜2021年フランスのブルターニュ録音
レーベル:
Nadja21 (openmusic)
在庫有り
見開き紙ジャケット仕様CD
輸入盤・日本語帯・ライナーノート付
(ライナーノート :金野 ONNYK 吉晃)