★米西海岸LAシーンでの活動を経て1970年代に入るとニューヨークへ拠点を移し、晩期のチャールズ・ミンガス・バンドで頭角を現して以来、半世紀に渡って主流派モダン・ジャズ界第一線で活躍を続け、数多くの優れたレコーディングを残してきたハード・バップ・トランペットのヴェテラン重鎮:ジャック・ウォラス(1946年米フロリダ州スチュアート生まれ)の、今回は、エイブラハム・バートン(ts)をフィーチュアしたクインテットによるNYCスモールズでのライヴ編=自作曲集。
★シャープな張りとキレのある辺りは精悍凛々の猛々しい生命力を感じさせ、と同時にリキみの抜けた自然体の陰影濃い風合いをも呈しそれが独特のスモーキー・デカダンなけだるさにも繋がっている、という何とも味のあるトーンのトランペットがひたすら巧まぬ、ただ息をするような調子でバップ語法やブルース語法がおのずと深く身に染みついた鋭敏ブロウを、どこまでも気負わず悠々と紡いでコクのある醸熟の魅力を放ち、より若々しさを残した軒昂な気概やアグレッシヴ傾向の認められる力強いテナー咆哮がトランペットとは好対照を成しつつ躍動的に妙味を発揮、加えて抑え役もしくは引き締め役っぽく硬質アクションをぶつけてくるピアノのソリッド&アーシーな活躍も渋い底力を振るった、全体を通じあくまで"ハード・バップらしいハード・バップ"演奏が衒いやケレンを排した態でごく正攻法に貫かれ、ライヴならではの臨場感も手伝ってノリよく歯切れよく昂揚させられる快投内容。
★歌心とスイング感とブルース・フィーリングにポイントを絞った、単純明快な直球勝負の人情娯楽的ハード・バピッシュ奏演が腰を据えてテイスティー・グルーヴィーに展開されるが、主役であるウォラス(tp)のプレイがちょっとストイックともとれる無欲恬淡そうな脱力したレイジーさにほぼ支配された、ダイナミック・グルーヴと並行して一種の倦怠感を齎す辺りが唯一無二の癖になる特徴=居心地のよさを醸成していてこれが絶妙で(ちょっと頼りなげなところが却って得難い「味」か)、対するエイブラハム・バートン(ts)のそうした頽廃ムードを吹き飛ばさんとする感じの幾分派手めな猛ハッスルぶりも奮いに奮っており、この両者の静かな和気ある中での鬩ぎ合いが生々しいスリルと刻々移ろうリフレッシュ効果を生んでいて中々耳が離せない。
★ウォラス(tp)の、ピリッと鋭く音色やフレーズを尖らせるところもあるものの、大凡は至ってナチュラルに呼吸するかのようなソフトでちょっぴり物憂い柔らかな滑脱吹奏を繰り出して、その平易無作為げな語り口の内側から何とも云えぬ幽玄めいた含蓄を立ち昇らせる、という一聴簡潔質素でいて奥行き豊かな妙技のあり様にはさすが何気なく熟練した本領が顕れていて卓越しており、かたやエイブラハム・バートン(ts)の、そういうウォラスの地味めな振る舞いに対抗すべく強烈に攻勢をかける、ブルージー&モーダル・スピリチュアルな熱っぽい吠えっぷりがまた胸のすく壮快さ。時折モンキッシュに角を立てても来るジョージ・バートン(p)のダウン・トゥ・アースでさりげない激敢闘もナイス。
★全般に、質実剛健の飾り気なさの内にいつしかやみつきになる滋味・蠱惑性を秘めた、魔力を感じる逸品。
1. Roadkill
2. A Bite In Tunisia
3. Left Turn On 86th Street
4. Grandpa Moses
5. Mood For Muhal
6. Sacrifice
*all compositions by J. Walrath
Jack Walrath (trumpet)
Abraham Burton (tenor saxophone)
George Burton (piano)
Boris Kozlov (acoustic bass)
Donald Edwards (drums)
2023年4月米ニューヨーク市グリニッチ・ヴィレッジのSmalls Jazz Clubでのライヴ録音
レーベル:
Cellar Music (Cellar Live)
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見開き紙ジャケット仕様CD
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