Bada Beep Music、Cellar Live、Mack Avenue等よりの諸作に好評を集めてきた、アメリカ新世代の伝統派ピアニスト:エメット・コーエン(1990年米フロリダ州マイアミ生まれ)の、今回は、馴染みのベース&ドラムとのトリオで6曲、それにトランペットとアルトサックスの加わったクインテットで5曲、という構成での一編。滑らかな丸みっぽさとキレのいい鋭角性を併せ持った、小石を転がすような美味しいタッチのピアノが、ある時はストライドやスイング調といったレトロな語法で粋にブルースを奏で、ある時は重厚感を増してモーダル・スピリチュアルに哀愁と熱情を雄々しく歌い上げる、中々に振り幅の大きい表情豊かな劇的メロディック・プレイを綴ってしっかりテイスティー・グルーヴィーに魅力を放ち、一方、ピリッとスパイスの効いたハードボイルドな凛々アクションとまろやかで優しい寛ぎバラード表現を上手く使い分けるトランペットや、根は熱血肌のエネルギッシュ&アグレッシヴな咆哮技に本領を発揮するアルト、らも鮮度抜群にアジな彩りを添えた、全体を通じメリハリ〜色彩変化に富んだ流れを歯切れよく愉しませる会心打内容。概ね、トリオ曲では幾分かオールド・ファッションなスイング・ジャズ寄りの渋旨路線が、クインテット曲では現代的スマートネス溢れるモーダル・バップ趣向が、それぞれ展開されるという、一貫して明朗な歌謡性と吟醸的ブルース・フィーリングに濃く彩られたごく取っ付きやすいエンタテインメント指向の行き方が続き、ホール(b)やプール(ds)のかっちりツボを心得つつ芸も細かい、機智&ニュアンス豊かさを感じさせる精巧サポートに頼もしく導かれながら、コーエン(p)、ジョーンズ(tp)、バートリー(as)の旨味に満ちたアドリブ奮戦が実にイキイキと豊作ぶりを呈してゴキゲンだ。コーエン(p)の、ストライドもしくはブギウギ的文体を織り混ぜつつ大方はA・テイタムやO・ピーターソン辺りの流れを汲んだ、イキでイナセなファンキー・スウィンギン・スタイルを第一の柱として瀟洒かつ結構コク深い芳醇なる妙味を揮い、加えて、マッコイやハンコックの奏法を消化したモード色濃く勇猛さみなぎるダイナミズム攻勢を第二の柱として、エモーショナル&パッショネートに気を吐いても見せる、そうした、軽みやウィットっぽさと精悍軒昂さが局面に応じて的確に、鮮やかに顔を出すドラマティックな文脈形成が実に堂々と冴え渡っていて卓抜で、また、硬派にして少々やんちゃっぽくもあるバートリー(as)の鋭敏な立ち回りや、毅然げかつ懐の深そうなジョーンズ(tp)の含蓄ある悠々ブロウ、といった辺りもそれぞれきららかに光るなど、個人プレーの見せ場は極めて充実している。
Disc 1
Side A:
01. Finger Buster 4:13
02. Uptown in Orbit 8:13
03. My Love Will Come Again 5:36
Side B:
04. Spillin' the Tea 7:05
05. Li'l Darlin' 7:12
06. The Loneliest 5:23
Disc 2
Side C:
07. Venus de Milo 3:03
08. Distant Hallow 7:18
Side D:
09. Mosaic 3:46
10. Uptown in Orbit (Reprise) 1:19
11. Braggin' in Brass 3:42
Emmet Cohen (piano)
Russell Hall (acoustic bass)
Kyle Poole (drums)
Sean Jones (trumpet on 02, 03, 06, 08, 10)
Patrick Bartley (alto saxophone on 02, 03, 06, 08, 10)
? (male voices = narrations on 10)
■パンデミック明けが見えてきた 9 月にマック・アヴェニューの本拠地デトロイトで開催された「デトロイト・ジャズ・フェスティヴァル」でも、圧倒的なプレ
イで、大観衆を興奮の坩堝に巻き込んだ人気ピアニスト、エメット・コーエン。マック・アヴェニューからの第 2 弾、『アップタウン・イン・オービット(Uptown
in Orbit)』で、一気に同レーベルの中心アーティストへと駆け上がります。
■ コロナ・パンデミック禍で、ジャズ・クラブは閉鎖し、全てのツアーが停止した2020年3月。ハーレムのエメットのアパートから、毎週月曜日の夜に始まった”Live from Emmet’s Place”は、彼のトリオに大ヴェテランから若手まで多彩なゲストを迎えて収録され、今や世界最大の視聴回数を誇るレギュラー・ベースのジャズ配信へと進化しました。