★現在はハリファックス(カナダ-ノバスコシア州)を拠点に活動しているという、カナダの女性ギタリスト:サム・ウィルソン(カナダ-オンタリオ州生まれ)の、ソロ・ギターによる一編。
★まろやかな潤いと渋い旨味そしてシャープなメタリック感が渾然一体化した、きめ濃やかでニュアンスに富み深みのある端正なトーンのギター(エレキ)が、憂いと歓喜を交錯させながら、ある時はじっくりしっとりと心象風景の移ろいを実況スケッチしてゆくような私小説的・半内省的な、またある時は優しい笑顔でおおらかに田園っぽい情景を活写してゆく風な牧歌調の、いずれも耽美的でロマンティシズムに溢れつつその筆致のディテールにはバップやブルースの伝統的イディオムが脈々と息づいている、という、全く独自の仄暗くクールな哀愁やリリシズムに彩られたアンニュイ・ポエティック・プレイをひたすらセンシティヴに紡いで、含蓄豊かで味わいしみじみなる音景色をサラリと軽々描き出した、平易柔和にしてさりげなく密度の高い充実内容。
★落ち着いた静穏さやインティメイトな空気感を絶えず底流させた、テンポ的にはミディアムかスロー・タイプがメインの、ちょっとバラード集っぽくもあるメロウ&ノワールなロンリネス漂う抒情的行き方が続き、1曲1曲はわりかし簡潔にまとめられる充分抑制の利いた質素淡麗とも云える道程の中で、ウィルソンの、徒然気ままに一筆書き風の素描に徹しているようであり、それでいてそのフレーズ展開は歌心やブルース・フィーリングにも決して事欠かず、かと云ってキャッチーとまでは行かないビタースウィート風味の幾分かダーク・メディテーショナルな固有のメランコリック文脈へとキッチリ制御され、自ずと収束しており、そうした、巧まずしてナチュラル・ストイックで行間余情の深い語り口の妙は卓抜だ。
→バップ・ギターやブルース・ギターのオーソドキシーを十二分に消化した上で、極めて独創的な瞑想浪漫であったり誰にも似ていないフォーキー・ブルース風情であったりの世界観を、この上なく繊細な機微も絡めつつやや恬淡げに、スッキリさっぱりと事も無く具現化してのける、そういった、一切ブレるところのないワン&オンリーのユニークさに満ちていながら、紛れなしにしっかり「ジャズ」の態を確固と成したその芸風・作風は、大層蠱惑的でもあり、また誠に風流な幽玄雅趣にも溢れている。見事。(タイプは異なるも、ビル・フリゼールやローレン・マザケイン・コナーズ辺りにもどこか相通じる、全く唯一無二な個性のあり様、か。)
01. イナーシャ
02. レイルウェイ・スピン
03. ベアトリス (by Sam Rivers)
04. サザン・リンボ
05. ピース (by Horace Silver)
06. グッドバイ・オーガスト
07. モーニング・モチベーション
08. アローン・トゥゲザー (by Arthur Schwartz)
09. イントゥ・ア・ハート
10. レット・イット・リーヴ
11. ハリー・アップ・アンド・ウェイト
12. エアポート・コンテンプレーション
Sam Wilson サム・ウィルソン (solo guitar)
2020年6月28日・29日 録音
レーベル:
Muzak
在庫有り
国内制作 見開き紙ジャケット仕様CD